腸の神秘②
少し間が空いてしまいましたが、引き続き腸内で生じている神秘的な現象をもう少し掘り下げてみます。ポテチやジャンクフードは体に悪いとわかっていながら、その依存性ゆえ食べてしまうのは脳内物質が関係していると述べました。
ヒトは「おいしい」という感覚を得ると、β-エンドルフィンやドーパミン、セロトニンが増えて快楽中枢が刺激され、脳が幸福を感じます。その脳の幸福感を得るため、また美味しさを求める。これを繰り返すことにより自分の報酬系を活性化させてしまいます。報酬系が活性化されたヒトは強いストレスにさらされると過度に「快」を求めてしまいます。その結果、過食になったり異常行動をしたりします。
このような行動を引き起こす原因であるセロトニンやドーパミンなどの脳内物質とも腸は密接な関係があります。
セロトニンもドーパミンも幸福物質と呼ばれている幸せな時に分泌される脳内物質です。そして、もともとは腸内細菌間の伝達物質なのです。生物は、腸から発生してきたことを前回書きましたが、感情や気持ちなどを決定する脳内物質もほとんど腸で作られているのです。正確には脳内物質の前駆体を脳に運ぶという重要な役割を担っています。
では脳内物質が何から作られているのでしょうか?
当然、腸内で利用できるものといえば食べ物しかありません。ドーパミンはフェニルアラニンというアミノ酸がないと腸内で合成できません。フェニルアラニンは腸内でチロシンという物質になり、それが水酸化してL-ドーパというドーパミンの前駆体として合成されます。
また、セロトニンもトリプトファンを食物から摂取する必要があります。トリプトファンは5-ヒドロキシトリプトファンという前駆体に代えられて腸内細菌によって脳へ運ばれます。そして体内のセロトニンの90%は腸に存在していると言われています。
しかしこれらのアミノ酸が多く含まれる食品をいくら食べても、腸内細菌がバランスよく増えていないと、うまく合成することができません。それは、腸内細菌のバランスが悪いとアミノ酸を分解するのに必要なビタミンが不足してしまうからです。アミノ酸の分解にはビタミンB群がとても重要です。腸内細菌は、パントテン酸(ビタミンB5)、葉酸(ビタミンB9)、リボフラビン、ナイアシン(ビタミンB3)、ビオチン(ビタミンB7)、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンKも生成します。細菌のエサであるセルロースの添加によってビタミンB群の合成が大幅に増強されるという東北大学の研究もあります。セロトニンやドーパミンを合成するためには、葉酸やナイアシン、ビタミンB6などが無くてはなりません。腸内細菌の数が少ないとこれらのビタミンの合成量も少なくなるのです。
そしてビタミンC も重要ですが、ヒトはビタミンCは体内で合成することができません。そのため、食べ物から摂取することが必要です。しかし、乳酸菌もビタミンCを微量ながら生成します。野菜や果物を摂れない遊牧民は、乳酸発酵された馬乳酒を1日最低1-3リットル程度飲んでいるとの報告もあります。馬乳酒にはビタミンCが100mlあたり8-11mg含まれているからです。だからといって体内の乳酸菌によってもたらされるビタミンCはほぼゼロなのには変わりませんが。。。
したがって、腸内細菌のバランスが良く、しかも多量に存在しないと、腸内でのビタミン合成が低下し、セロトニンやドーパミンが不足して、イライラしたり、鬱状態になったりするのです。
では、その腸内細菌のバランスはどのように整えれば良いのでしょうか?続く。。