麻酔が効きにくいヒト
日々の臨床でときどき麻酔が効きにくい人がいます。
僕が歯科医として2年目のときに先輩に、なぜ麻酔が効きにくい人がいるのかと質問してこう言われました。
「身体が酸性に寄ってるから効きにくいんだよ。そういう人は酒飲みが多くて、あまり野菜を食べないからだよ。そして炎症している部位は酸性だから、アルカリ性の麻酔薬は中和されてしまって効きにくいんだよ。」
まだアホだった僕はその言葉を信じ込みました。
それ以来、患者にも先輩に言われたままを得意げに説明していました。
しかし少したったある日、麻酔薬の添付文書を見て、鼻から脳みそを吹き出しそうになりました。
そこにはこう記されていました。
「pH3.0~4.5」
めちゃくちゃ酸性でした。
あまりにも的はずれな先輩の見解を憎むことよりも、無知な自分に対しとても恥ずかしい気持ちになりました。
ドクターに堂々と説明された患者は、間違った情報でも納得せざるを得ません。
しかし今もその様なことは日常的に行われています。
稀な経験や人づてに聞いたような不確かな情報でも、ドクターが話せば真実として受け入れられてしまうのです。
それ以来、その様な医療を行うことは僕には許し難いものとなりました。
そして、しっかりと根拠のある正確な情報をインプットして患者に提供しようと、いろいろ本や論文を読むようになりました。
その結果、麻酔が効きにくいということはストレスが関与しているという結論にたどり着きました。
ヒトは恐怖や不安などのストレスを感じるとカテコールアミンが増加します。
当然、麻酔の針を刺す時に痛みを感じることもストレスですのでカテコールアミンの分泌が増えます。
カテコールアミンとは、心と身体をつなぐ劇薬のことであり、ドーパミン・ノルアドレナリン・アドレナリンの3つをまとめたものです。
ドーパミンはヒトの行動様式に大きく影響を与える神経伝達物質の一種であり、うつ病やパーキンソン病などの治療薬は、このドーパミン代謝に関係したものが多いです。
ですのでこれらの薬を飲んでいる人達も麻酔が効きにくいことがあります。
またアドレナリンやノルアドレナリンはストレス、主に興奮状態を促すことに関係する神経伝達物質です。
ですので手術中に痛み(ストレス)を感じて追加する麻酔はとても効きにくいのです。
また、歯科恐怖症のヒトや自律神経のバランスが乱れているようなヒトも、もともと麻酔が効きづらいと言えます。
つまり、しっかり麻酔を効かせるためには、いかに患者に安心感を与えるか、そしていかに痛くない麻酔をするかが重要です。
なるべく患者にストレスを与えず、優しさを持って接するかが痛くない治療をするための鍵であると言えます。
これらの情報は大学でも教わることはありませんので、しっかり勉強して知識のある歯科医はリラックスできる環境づくりにしっかり配慮していると思います。
ですのでオーラルクリニック宮崎台はそんなリラックス空間を提供することを常に心がけています。